今月の言葉(掲示伝導)

「杖」

 あるところにたいへん愚かな召使いがいました。ある日、主人がその召使いを呼びつけて『私は多くの召使いを雇ってきたが、お前ほど愚かな召使いは初めてだ。世界一の愚か者の証拠として、この杖をお前に渡そう。お前が自分より愚か者をを見つけたならば、その杖をその人に渡すといい。』と言うと、世界一の愚か者の証である杖を召使いに渡しました。杖を渡された召使いは、必ずどこかに自分よりも愚かな者がいるに違いないと方々を探しましたが、結局自分より愚か者は一人も見つかりませんでした。・・・月日が経ち、やがて主人が臨終の時を迎えました。

 臨終の床についた主人に、愚かな召使いは尋ねます。【ご主人様、いま外で村人達が、これからご主人様が遠い遠い所へ旅立とうとしていると噂しておりましたが、一体ご主人様はどこへ行かれるのですか?】『・・・わからない。』主人は答えました。すると【では行き方はわかっているのですか?】召使いは尋ねます。『・・・わからない。』主人はまた答えました。【旅の準備は?】『・・・いや、何もしてはいない。』

 すると愚か者の召使いは突然ピシャっと自分の膝を打って嬉しそうに【これから遠い遠い所へと旅をするっていうのに、その行き先も行き方も知らず、旅の準備もしていないだなんて、こんな愚かな人を聞いたことがない。】と言って、自分が持たされていた世界一の愚か者の証である杖を、なんと主人に渡したそうです。

 皆様はこのお話をどう受け取るでしょうか?法然上人は阿弥陀様の国である極楽浄土に生まれるために、「お念仏を声に出して唱える」という修行法を見つけ、日に六万回のお念仏を唱え臨終を迎えましたが、一体私たちはどこへ向かって進んでいるでしょうか?行き方をちゃんと知っているでしょうか?そしてまた、その旅のための準備は万全でしょうか?考えさせられる事でございます。

                                       合掌  鵜飼義丈