今週の言葉 (掲示伝導)

「稽古」

 どんな分野でも「基本を大切に」とはよく言われることであり、そんな基本を身につけることを意味した言葉の一つに「稽古」があります。
一般に使われている稽古の分野としては、茶道や歌舞伎などの伝統芸能の世界に限られがちですが、稽古がもともと意味するところは、「過去に学ぶ」、その一事につきます。
現在、我たちの文明がこれほど発展できたのも、私たちの祖先が、次の世代へ伝える、そして、受け継ぐという継続があり、この切れ目のない継続を可能にしたのは、稽古、つまり「過去に学ぶ」という人間の智慧があったからです。
このような稽古の光景は、私たちの日常生活においてもいろいろな場面で見られます。洗面や掃除、食事の仕方などの必要最低限の知識は、幼い頃から、これを毎日くり返すことによって、正しく覚えていく、いわば稽古の積み重ねといえます。

かつて、法然上人がお念仏の救済を確信されるに至るまでには、比叡山で三十年におよぶ長い長い修学の期間がありました。その間、一切経を五遍も読み返され、「智慧第一の法然房」とまで言われたのです。そして、この世で悩み苦しむ多くの人が差別なく救われる道、それを長い求道の果てに、善導大師の教えにめぐり会うことができたのです。
仏典を何度も何度も精魂込めて読み返すという努力、それは「過去に学ぶ」、つまり稽古の積み重ねそのものであり、地道で辛苦をきわめたその果てに、新しい救いの道が開かれることになったのであります。

                       三浦組常任理事 菊池邦彦